相席のカフェで出会った今のフィアンセ

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彼と出会ったのは美術館のカフェの中です。
お昼どきの店内はかなり混みはじめていて、
一人だった私は相席を求められました。

どうしても一人がいいなんて事はなかったですし、
ここのカフェのホットケーキがどうしても食べたかったので、
快く了承し、先にお客さんがいる席に案内されました。

オーダーを済ませると、
さっき見てきた展示のパンフレットを広げて、
もう一度脳内で作品を反芻していました。

その時の展示はエッシャーで、
特に「結婚」と題された絵がとても気に入りました。
パンフレットにも紹介されているその絵をじっと見ていると、
向かいでコーヒーを飲んでいた男性が私に話しかけて来ました。
「エッシャー、好きなんですか?」

私はかなりびっくりして、
そのびっくりした感情丸出しの表情で相手を見つめてしまいました。
返事もできなくて言葉に詰まっていると、
その人は「急に話しかけてごめんなさい」と言ってから、
気まずそうにコーヒーを飲みました。

その反らした横顔が本当にすまなそうで、
とても優しい人に見えました。
その顔に何だか安心してしまって、
私はびっくり顔を引っ込めて話をすることにしました。

彼も美術館のカフェにいる以上、
同じエッシャーの展示を見てきたので、
お互いに気になった作品の話をしました。
私の好きな「結婚」は、
彼にとっては少し怖くて苦手な作品であることもわかりました。

私がホットケーキを食べ始め、
彼が二杯目のコーヒーを注文する頃には、
私と彼は同じ大学で、
彼は違う学部の先輩であることがわかりました。
絵の好みは合わなかったのですが、
話がすごく合う人で、
初対面なのにランチタイムが終わるまで話し込んでしまいました。

二人で席を立つ前に連絡先を交換したのですが、
その時彼は本当に嬉しそうでした。

その相席になった人が今の私の彼氏です。
来年結婚することになりました。
相変わらず絵の趣味は合いませんが、とても仲良しです。
今でもエッシャーの「結婚」を見るたび、
申し訳なさそうにコーヒーを飲む、
今より少し若い彼の横顔を思い出します。

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